議会質問と答弁

2022年第2回定例会一般質問(6月15日)

 1.(仮称)世田谷区障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例素案について

世田谷区障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例は、障害者差別をなくす条例と考えています。障害者差別はとても根深く、時には命の選別となって現れます。かつて、旧優生保護法下で障害者に対する強制不妊手術が行われ、男女ともに子どもを産む機会を奪われました。現在では個人の尊厳や子どもを産み育てる権利などを保障した憲法に違反するという判決が出され、さらに、一九九六年に法改正されるまで不妊手術を強制する条項を廃止しなかった国会の対応を違法とする判断も示されています。しかし、命の選別行為は、現在では出生前診断という形で続けられています。

二〇一六年の相模原市の津久井やまゆり園事件では、障害者は社会に役立たない存在という理由で十九人の障害者が命を奪われました。この事件は特殊な人が起こした特殊な事件でしょうか。私たちの社会は能力主義が前提となり、できるできないで人を分けることによって、障害者差別を肯定してきたのではないでしょうか。その一つは、学校現場での特別支援教育を肯定する意識だと感じます。

今回の条例は、このような社会に終止符を打つ、障害のあるなしにかかわらず、共に地域で生きる地域共生社会、インクルーシブ社会を目指す条例です。これはとても大きな挑戦であると私は感じます。この条例が目指す社会像とは何か、地域共生社会を実現するには何をこの条例の基本理念とするのかお聞きします。

これまで条例に位置づけることを求めてきたインクルーシブ教育が、十六条二項に位置づけられました。しかし、その内容については議論が残るところです。確かにインクルーシブ教育について言及はありますが、項目は教育の機会の確保となっています。障害のある子どもは基本的に教育の機会は確保されています。問題は、教育を受ける場が、障害があるかないかによって分けられている現実です。この条例が目指すのは、障害を理由として差別されたり、排除されたりしない社会、地域共生社会です。この条例が求める教育の在り方は、誰もが共に学び、共に育つ教育の実現であり、その教育が障害者への差別や排除がない、誰もが共に生きる共生社会の実現につなげていきます。

インクルーシブ教育を正しく位置づけることを求めます。改めて条例が目指す教育の在り方を問います。見解をお聞きします。

先日、次のような話をお聞きしました。障害のある区民が世田谷区の窓口に介助者と一緒に訪れたところ、対応した職員は本人を無視し、終始介助者と会話をしたそうです。障害のために言語が聞き取りづらいところがあったのかもしれません。しかし、これは間違った対応です。区は、この対応の何が問題だと考えるのか。また、窓口対応の研修や人権研修などを行う必要があると考えますが、見解をお聞きします。

また、障害を理由に受けた人権侵害の救済の仕組みも重要です。相談対応は位置づけられていますが、男女共同参画・多文化共生条例には苦情処理委員会が、子ども条例には子どもの人権擁護機関せたホッとがそれぞれ設置されているように、人権侵害について調査勧告を行える第三者機関が必要ではないでしょうか。見解をお聞きします。

 2.今後取り組むべき若者支援の推進課題について

新宿歌舞伎町の新宿東宝ビル近くに集まるティーンエイジャーの子どもたち、いわゆるトー横キッズの存在が報道されています。居場所、行き場のない子どもたちが集うその場所では、事件や事故が多発しています。家にどうしても帰れない、帰りたくない子どもたちは路上で一夜を明かしたり、一夜を過ごすための場所を求めて援助交際をするうちに危険な目に遭うことも実際にあるそうです。ある番組で取材に応じた子どもたちは、家庭や学校に居場所がなく、虐待を受けていました。性暴力などに巻き込まれている例も少なくありません。この状況は世田谷も無縁だとは思えません。

区は、児童相談所を設置したことで子どもの様々な困難な状況を以前よりも把握しているのではないでしょうか。現状についてお聞きします。

これまでも傷つきを抱えた若年女性の支援を強めることを求めてきました。若年女性への支援策は喫緊の課題です。児童相談所のみならず、若者支援や子ども所管、男女共同参画、保健所、教育委員会など多所管が連携して取り組むべき課題です。支援の在り方に対する考えをお聞きします。

子どもから若者へと成長する時期に深刻な影響を与えるにもかかわらず、顕在化しにくいのが教員による性暴力です。代表質問で取り上げたグルーミングは、教員を信頼し、慕う子どもの気持ちや感情を巧みに利用する行為です。性暴力の発覚後、同意があったとする加害者はこの巧みなグルーミングによってつくられた関係を利用します。教員と子どもという上下の関係がある中で、果たして対等な関係で同意が成立するのか。加害者の偏った理屈でつくり上げられたファンタジーでしかありません。

性暴力、性犯罪をいたずらという言葉で過小評価する傾向もいまだにあります。教員による性暴力への対応は、暴力を生む構造について理解を深めるとともに、社会的な問題として取り上げるべきです。教育委員会の見解をお聞きします。

本来であれば保護されるべき存在である子どもが、子ども自身のキャパシティーを超える責任を負い、家族のケアを担うヤングケアラーが社会問題として広く認知され始めました。ヤングケアラー支援の先進国であるイギリスのガイドラインでは、親の病気や障害は子どもがケアを担うきっかけでしかなく、普通ヤングケアリングは、病気や障害のある大人が親として役割を果たすことへの支援において、適切な医療や福祉のサービスがなかったり、効果的でなかったりする場合に起こるとしています。つまり、ヤングケアラーは家族の問題ではなく、必要なサービスやサポートが適切に届いていないことによって起こる社会構造の問題と捉えています。

日本は長年、介護などは家族で何とかすべきとされてきました。介護保険制定後も、結果的に家族介護の負担は軽減されず、介護離職は解消されないままです。長時間労働や仕事のかけ持ちなどで家族を支えるような日本の経済構造が、大人のように働き、稼げない子どもに、大人に代わって家事や家族の世話をすることを求めヤングケアラーを生み出しています。現在、世田谷区はヤングケアラー実態調査を行っています。

さらに必要なのは、現場でヤングケアラーに関わる可能性のある職員や教員などへの調査です。実際に把握されたヤングケアラーの実態や、実際の支援や支援できなかったことなどを明らかにし、今後の支援策づくりに生かすことは効果的です。見解をお聞きします。

また、若者支援として、障害のある子どもの中学卒業後の進路への支援の充実も求めます。現在、障害のある子どもの進路指導は、特別支援学校ありきになっていないでしょうか。世田谷区は真のインクルーシブ教育を目指していますから、その理念は隅々まで徹底される必要があります。これから地域の学校に通う障害のある子どもは増えていくはずです。そして、小中学校を地域の学校で過ごした子どもが中学卒業後の進路を考えることになります。現在でも特別支援学校ではなく、都立高校などに進学する子どももいます。義務教育以降も、障害のあるなしにかかわらず、共に学ぶことを続けてることが可能です。進路を決める際の情報提供の在り方や、教員自身が障害のある子どもの進路に対する偏見はないかなど、課題があります。

 インクルーシブ教育の実現を目指す世田谷区は、障害のある子どもの中学卒業後の進路指導にどのように取り組むべきか、見解をお聞きします。

 以上で壇上からの質問を終わります。(拍手)

 〔中村副区長登壇〕

【答弁:中村 副区長】 私からは、傷つきを抱えた若年女性への支援について御答弁いたします。</p>

この間、児童相談所からの報告を受ける中で、児童相談所が対応している子どもたちが、幼少期の児童虐待などにより心理的に大きな傷を負っていることを実感しています。特に若年女性の中には、問題が多様化し、行き場のない苦しみや傷つきを抱えて生活している方が少なからずいることを再認識しているところです。そうした方々の中には支援を受け入れず関わりを拒否されている方もおり、必要な支援につながらないこともあります。支援からこぼれやすい若年女性を誰一人取り残さず、必要な相談機関や支援につなげるためには、関係所管が連携し、複合的な問題に寄り添い、きめ細かな支援を行う必要があると考えます。</p>

区としては、これまで子どもの居場所支援や女性の支援など、様々な施策に取り組み、関係所管が連携し個々の支援に当たっておりますが、改めて庁内一体的な理解や連携を深めるよう努めてまいります。

【答弁:須藤 障害福祉部長】 私からは、条例素案について御答弁を申し上げます。

まず、この条例が目指す社会像、共生社会の実現のための基本理念といったことについてです。

区ではこれまで、障害に関する法律や世田谷区基本構想等に基づき、障害に対する差別や偏見の解消に取り組んできましたが、いまだ不十分な状況です。このため、どうしたら今よりも障害理解が促進され、差別解消が進められるか。障害者とその家族、関係機関等から御意見を伺い、地域共生社会の実現に向けた条例の検討を進めてまいりました。

本条例の基本理念には、個人の尊厳が重んじられること、多様性を認め合い障害の社会モデルに関する理解を深めること、意思疎通手段の選択の確保による自己決定権の尊重などを定める予定としております。心身の機能に障害のある区民のみならず、様々な状況や状態にある区民が、互いの多様性を尊重し、異なる価値観を認め合い、共に暮らし続けることのできるインクルーシブな社会の実現を目的として条例を制定し、今後の施策展開の基礎としてまいります。

続きまして、インクルーシブ教育を正しく位置づけるということについてです。

今回の条例では、地域共生社会の実現を目指して基本となる考え方や必要な施策を総合的に講じていくことを定める予定です。インクルーシブ教育については、国連の障害者権利条約にある考え方を基本として検討してきました。インクルーシブ教育の実現に当たって、障害の有無にかかわらず、全ての子どもたちが共に学び、共に育つという基本理念を教育ビジョンの調整計画に明確に位置づけております。地域共生社会の実現に向けまして、本条例にも同様に位置づけていきたいというふうに考えてございます。

新たな条例の施行により、学校をはじめ、地域全体にインクルーシブ教育や地域共生社会に関する理解の醸成が図られるよう、これまで以上に福祉所管と教育所管と連携し、共に学び、共に育つことができる環境づくりに取り組んでまいります。

続きまして、窓口対応の問題と研修についてです。

区では、障害の理解促進と差別解消を進めるため、障害に関する基本理解や接遇に関する研修を行うとともに、対応要領を策定して対応力の向上に努めております。しかしながら、区役所内での区民対応において、障害当事者ではなく、隣にいる介助者に話しかけ内容の説明を行うといったことが昨年度も報告されております。御本人がいるにもかかわらず、介助者の方などを中心に対応することは、御本人にとっては無視されているのと同じことであり、個人の尊厳を傷つける行為であるというふうに考えてございます。

こうした事例は、教訓として、職員間で何が問題であったのか情報を共有していくほか、事例を踏まえたリアルな研修を実施するなど、関係所管とも連携し、障害理解や差別解消といったことだけではなく、人権や個人の尊厳に関わる問題であること、課題であることを周知できるよう取り組んでまいります。

最後に、人権侵害についての調査、勧告を行う第三者機関についてです。

区では、障害を理由とした不当な差別的取扱いや合理的配慮に関する相談について、専門調査員がお話を伺い、実地調査や助言等を通じて差別解消に向けて取り組んでおります。区で解決が難しい場合には、都の広域支援相談員を紹介し、第三者機関によるあっせんや勧告につながる場合があります。権利侵害が疑われる場合には、都や国の人権相談があり、重層的な相談対応の仕組みが整備されていると考えてございます。

障害者の権利を守ることは大切だというふうに考えておりますので、今後権利擁護に向けて、お話しのような機関のほか、例えば区の専門相談員に対して弁護士から助言をいただく方法など、人権侵害を伴う相談への対応について検討してまいります。

私からは以上です。

【答弁:土橋 児童相談所長】 私からは、行き場のない若年女性への支援の現状についてお答えいたします。

区が児童相談所を開設し二年がたち、この間、児童相談所が関わった子どもたちは、対人関係の安心感のなさ、家庭でも学校でも居場所をつくれず、傷ついた経験を重ねていることが見えています。その要因は、親自身が親からの虐待を受けた経験があることや、DVの被害者であり、経済的な苦しさを抱えていること、また、子どもの発達の課題に適切に対応できていないことなど様々です。傷ついた経験を重ねている子どもは容易に人を信じなくなっており、支援を拒否することもあります。児童相談所だけで解決できる問題ばかりではなく、改めて医療機関や教育機関などとも連携し、できるだけ早期に支援を開始して子どもの傷つきを深めないようにしていくことが重要だと再認識しています。

区が目指す予防型の児童相談行政の実現に向けて、現場から見えてきた課題を関係所管に発信し、共有しながら、子どもや家庭の困り事に対しての気づきのアンテナを高め、寄り添った支援をしてまいります。  私からは以上でございます。

【答弁:柳澤 子ども・若者部長】

私からは、ヤングケアラーに関わる職員や教員などへの調査についてお答えいたします。

五月より実施しておりますヤングケアラー実態調査は、区立小学校四年生から中学校三年生及び区内在住の高校生世代を対象として、家族構成や学校生活の状況、家族のお世話の状況や困り事などを聞いております。

ヤングケアラーの問題は家庭内のこととして周囲が気づきにくいほか、ヤングケアラー自身に自覚がない場合もあり表面化しにくいことから、必要な支援につながりにくい状況にございます。そのため、総合支所保健福祉センター各課のケースワーカー、学校の教員、ケアマネジャーやヘルパーなどの福祉サービス事業者といった子どもの周りにいる大人の気づきや働きかけが非常に重要になってくると認識しております。

今後、実態調査結果の分析を行う中でヤングケアラーと関わりがある福祉関係者や、子どもに身近な存在である学校の教員などへの聞き取りやアンケートの実施などについても検討し、学識経験者の意見も伺いながら、ヤングケアラーの早期発見と適切な支援につなげる仕組みづくりに取り組んでまいります。

【答弁:粟井 教育政策部長】 私からは、二点御答弁申し上げます。

初めに、障害ある子どもに対して中学校卒業後の進路支援についてお答え申し上げます。

障害のある子どもたちの中学校卒業後の進路選択につきましては、本人、保護者ともに、早い段階から様々な進路先を知り、分け隔てなく一人一人が希望する進路を選択できるよう適切な情報を提供していく必要がございます。そのため、中学校における進路指導では、三年間を見通した計画を立て、進路説明会や三者面談において就業及び進学に関する情報を適切に保護者へ伝えていくことが重要であり、かつ適切に進路に関する情報を提供できるよう、教員も幅広い知識を身につけることが必要であると考えております。

また、収集した情報を、インクルーシブ教育の推進に向けたガイドラインやデータベースに反映し、広く共有することで、早期に進路に関する情報を提供し、将来の見通しを持って進路選択ができるよう支援してまいります。そのため教育委員会といたしましても、関係諸機関等と連携しながら、各進路先に関する情報を校長会等を通じて周知し、学校が適切に進路指導に取り組むことができるよう支援してまいります。

次に、学校の教員による性暴力への対応についてお答え申し上げます。

教員による児童生徒への性犯罪、性暴力行為は極めて重篤な非違行為であり、児童生徒、保護者、地域住民の信頼を著しく失うだけでなく、児童生徒の心に大きな傷を与える行為であることから、毎月、校長会、副校長会において、服務事故防止の周知徹底を図るとともに、区主催の全ての教員研修において、性暴力等を含めたハラスメントに関する短時間の研修を位置づけ、教員の倫理観や規範意識等をより高めるよう指導しています。さらに、令和四年五月に、都教育委員会が設置した児童生徒を教職員等による性暴力から守るための第三者窓口について児童生徒及び保護者に周知し、児童生徒や保護者が電話やメールで通報及び相談できるようにしております。

区教育委員会といたしましても、教員による性暴力等の根絶を目指し、今後、専門家の意見も伺いながら、教員研修のさらなる充実を検討していきます。

以上でございます。

【再質問】一点お聞きしたいと思います。障害者理解促進条例ですけれども、この制定のプロセス、策定の議論の中で、手話言語についての取扱いというのがいろいろと議論をされました。現在では手話言語条例というのは個別につくるということを言っていますけれども、この制定のスケジュールというものをお聞きしたいと思います。

【須藤 障害福祉部長】

再質問にお答えいたします。

手話言語条例の制定に関しまして、意思疎通手段としての手話と言語としての手話、これを同一の条例に盛り込むことは言語としての手話の認知が深まらないといった御意見や、平成二十六年に区議会で趣旨採択されました手話言語に関するものの経緯も踏まえまして、今回素案を示した条例とは別に、手話言語条例を検討することといたしました。

スケジュールといたしましては、言語としての手話に関する区民の方々への周知を図る取組を進めるとともに、令和六年度から、次期せたがやノーマライゼーションプランの策定に向けた検討を行いますので、こちらの検討と並行して、障害当事者や区議会などからも御意見をいただきまして、手話言語条例の内容等について検討してまいります。

以上です。

四十五番(桜井純子 議員) 先ほどの教員の性暴力の問題のところですけれども、服務事故という言葉がありました。先ほど私、質問の中でも過小評価をする、そういった傾向があるということを言いましたけれども、この服務事故というのは、ある一定程度、行政業務なのか何なのかなと思いますけれども、こういった言葉を使い続けることも、起きている性暴力、性犯罪というものに対して正しい認識を歪めていると私は思いますので、この点に関しては変えていっていただきたいと思います。

そして、差別の問題については本当に当事者の方々の御指摘をいただいて、どんどん条例がよくなっていると思います。今後パブリックコメントを重く受け止めて、よい条例をつくっていただきたいと思います。

以上で終わります。